「内なるスコアカード」を大切に——他人の評価に左右されない生き方
世界一すばらしい恋人なのに、他人からはひどい恋人と思われるほうがいいか、それとも、実はひどい恋人なのに、他人からは世界一の恋人だと思われるほうがいいか?
Think Clearly 学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法 —— ロルフ・ドベリ
この問いかけは、投資の神様ウォーレン・バフェットが発した有名な言葉です。
一見、恋愛のクイズのようにも思えますが、実はこれ、私たち自身の在り方を探る重要なメタファーなのです。
あなたならどちらを選びますか?
「なぜこんなに悩ましいのか」と思うかもしれません。
なぜなら、この質問は、私たちが常に直面する「自分が本当に望むもの」と「周りからどう見られるか」の衝突を、率直に突きつけてくるからです。
「内なるスコアカード」と「外のスコアカード」が生む葛藤
バフェットは「自分の内側にある自分自身の基準」と「周りの人の基準」をそれぞれ、「内なるスコアカード」と「外のスコアカード」と呼びました。
この問いかけでは、私たちが「内なるスコアカード」と「外のスコアカード」をどのように扱っているかがわかります。
- 内なるスコアカード:自分自身の基準。自分が大切にしている価値観や信念、正直さや誠実さ、そして良心に根ざした判断基準。
- 外のスコアカード:他人の目線や世間的な評価。SNSで映える写真や社会的地位、職業肩書き、ブランド物の服やアクセサリーなど、外から見える「わかりやすい成功」。
問題は、多くの人がこの「外のスコアカード」のために、せっかくの「内なるスコアカード」を犠牲にしてしまうということです。
「他者の評価」という幻想に取り憑かれ、結局は自分を見失ってしまうことも少なくありません。
SNSはその典型的な舞台ですよね。
キラキラした写真をアップし、華やかなライフスタイルを演出することで周囲の「いいね!」を求める――そのとき、私たちは「内なるスコアカード」よりも「外のスコアカード」を優先してしまいがちです。
その結果、内心では不満や空虚感を抱え、「本当はこんなこと望んでいないのに」と嘆くことになるかもしれません。
「ひどい恋人」のたとえが突きつける真理
バフェットの問いは、単なる恋愛論ではありません。
たとえば「世界一すばらしい恋人なのに他人から悪く思われる」状況は、自分が真に誇れる行動や価値観を持っているのに、外部の人々はそれを理解してくれない、または誤解している様を示しています。
一方、「実はひどい恋人なのに他人から最高だと思われる」状況は、自分の内面は空虚なのに、表面的な装飾で周囲を欺き、自分を偉大に見せている状態を意味します。
もし、私たちが自分自身に対して誠実であり、心から納得できる生き方をしているなら、たとえ周りが理解してくれなくても、内面から込み上げる満足感や自尊心は揺らぎません。
逆に、「外のスコアカード」頼りの人生は、不安定で脆く、他人の評価が下がった途端、一気に価値を失うでしょう。
自分らしい生き方を貫く魅力
「内なるスコアカード」を大切にする生き方を選ぶと、どんなメリットがあるのでしょうか?
まず、人間関係や環境の変化にあまり振り回されなくなります。
周囲の評価に一喜一憂する必要がなく、心が軽やかになります。
『「週4時間」だけ働く。』の著者であるティム・フェリスも次のように語っています。
世間には惨めな「成功者」がたくさんいる。そういう人たちの教えは玉石混交だから、模範にするときは気をつけたほうがいい。
シリコンバレー最重要思想家 ナヴァル・ラヴィカント —— エリック・ジョーゲンソン
世間で「成功者」と呼ばれる人の中には、実は満たされていない人もいます。
そんな「惨めな成功者」に感化されず、自分が何を大切にしたいのか、何が本当に価値ある「成功」なのかを見極めることが重要です。
他人の期待に振り回されるよりも、自分で自分を評価し、自分が納得できる人生設計をすることの方が、長期的な幸福や充実感につながります。
たとえば、あなたが深夜にこっそりインスタントラーメンを食べているとします。
世間的な評価(外のスコアカード)を気にするなら、「深夜にジャンクフードなんて不健康だ」と思われないか不安かもしれません。
しかし、あなたが本当にそのラーメンを愛し、その一杯が心の底から幸せをもたらすのなら、それこそ「内なるスコアカード」の出番です。
自分が納得している食事であれば、他人が「そんな不健康な食生活をするべきではない」などと批判しようと、あなたの幸せは揺らがないはずです。
つまり、「内なるスコアカード」を基盤とする生き方は、他人の都合に左右されず、自分にとって意味のある選択を支える強固な土台となり得ります。
外部評価の限界と自己受容の重要性
他人の評価を得ることは、一時的には嬉しいかもしれません。
しかし、その評価は気まぐれですし、どれだけ高評価を積み重ねても、永続的な心の平安は得られにくいものです。
周りがあなたをどう思うかの解釈は、あなたにはコントロールできません。
彼らがあなたを好きになるか嫌いになるかは、あなたがどれだけ努力してもコントロールできません。
一方で、「自分は何を大切にしているのか」「自分の信念は何か」を突き詰めていくことで、ブレない軸ができます。
自己受容は、その第一歩です。
長所も短所も丸ごと受け入れて、「これが自分だ」と認めてあげることです。
その上で、バフェットの言う「内なるスコアカード」を心の指針として生きていくことで、たとえ世間がどう評価しようと、揺らぐことのない満足感を得ることができると思います。
「偽りの成功」からの脱却
私たちは時に、社会的な成功や他人からの称賛を追い求め、それらが人生のゴールであるかのように思い込みます。
高級車やブランド服、キラキラした経歴は、確かに目を引きます。
でも、それらを手に入れても、もし内心で「本当はこんなものが欲しいわけじゃなかった」と感じるなら、その「成功」はまるで砂上の楼閣のように脆いものです。
たとえ周囲があなたを「すばらしい」と称えても、それがあなたの内なる価値観と食い違っていれば、虚しさだけが残ります。
あなたが、マラソン大会で金メダルを獲得するとしましょう。
しかし、実はあなたは走ることが大嫌いで、ただ他人から「すごい」と言われたくて練習を重ねてきたとしたら、どうでしょうか?
受賞の瞬間こそ拍手喝采があるでしょうが、その後の人生でランニングシューズを見ただけで憂鬱になってしまうかもしれません。
これは、外のスコアカードに振り回される生き方の一例です。
内なるスコアカードを育むために
「内なるスコアカード」を使って自分自身を評価するためには、まず自己理解が不可欠です。
自分の好き嫌い、価値観、信念、そしてどんな人を尊敬し、どんな人を避けたいのか。
これらを明確にすることで、自分という存在の核心をつかむことができます。
さらに、一度自分なりの評価基準が明確になれば、他人の評価はオマケのようなものに変わります。
もちろん、他人から称賛を受ければ嬉しいと思います。
でも、それはあくまで「おまけ」に過ぎず、あなたの幸せそのものではありません。
「ゲシュタルトの祈り」に込められたメッセージ
フレデリック・S・パールズが残した「ゲシュタルトの祈り」にある言葉は、まさに内なるスコアカードの重要性を示唆しています。
わたしはわたしの人生を生き、
ゲシュタルトの祈り —— フレデリック・S・パールズ
あなたはあなたの人生を生きる。
わたしはあなたの期待にこたえるために生きているのではないし、
あなたもわたしの期待にこたえるために生きているのではない。
私は私。あなたはあなた。
もし縁があって、私たちが互いに出会えるならそれは素晴らしいことだ。
しかし出会えないのであれれば、それも仕方のないことだ。
この詩は、シンプルな中に力強いメッセージを含んでいますね。
他人に合わせて自分を捻じ曲げる必要などなく、互いがそれぞれの人生を純粋に生きれば、出会うべき人とは自然と出会える。
そして、出会わなかったとしても、それは決して不幸ではない。
自分らしく生きることこそが、本当の満足感をもたらすことを教えてくれます。
愛や行動における「内なるスコアカード」の活用
もし、あなたが誰かに好意を抱いたなら、周りがどう思うかよりも、まずは自分の気持ちを大切にしてみてください。
「こんな人を好きになるのはおかしいのでは?」と他人の目を気にするのではなく、「自分はこの人と一緒にいて幸せなのか」ということを考えてみてください。
遠慮してしまうと、せっかく芽生えた感情や友情を育む機会を逃してしまうかもしれません。
もちろん、どんな行動にもリスクはつきものです。
声をかけてみて、反応がイマイチだったり、うまくいかなかったりすることはあります。
それでも、内なるスコアカードを重視して行動しなければ、そもそもそのチャンスを掴むことはできません。
人生を左右する選択へのアプローチ
内なるスコアカードを軸に生きることは、人生全般において強力な指針となります。
たとえば、キャリア選択の場面。
多くの人は「この職業は世間的に評価が高い」「この肩書きを持てば周りにスゴいと思われる」といった理由で決断してしまうことがあります。
でも、それが本当に自分を幸せにする仕事なのかは別問題です。
もしあなたが絵を描くことを心から愛しているのに、世間的な成功を求めて全く興味のない分野で働いているとしたら——確かに外のスコアカードは満たされるかもしれませんが、あなたの心は渇いたままになると思います。
逆に、内なるスコアカードに従って仕事を選べば、たとえ最初は収入が低くても、自分自身が納得できる日々を送れます。
その満足感は、一時的な称賛よりもずっと深く、長続きするものです。
そして数年後、気がつけば世間的な成功も手に入れているかもしれません。
「内なるスコアカード」にシフトする一歩
ここまで読んで「確かに内なるスコアカードって大事かも」と思ったあなたに、今日からできる小さなアクションを提案します。
- 自分の価値観を明文化する:紙でもスマホのメモでも構いません。「自分が本当に大切にしたいものは何か?」を書き出してみてください。家族、友情、誠実さ、学び、健康——どんなものでもOKです。
- 日常の行動を振り返る:その日の終わりに「今日の行動は自分の価値観に沿っていただろうか?」と考えてみてください。他人の評価のためだけに無理をしていなかったか、自分自身に問いかけてみてください。
- 小さな勇気を出す:友人関係、職場での振る舞い、SNSへの投稿など、一つでも「他人の目」を気にしていた行動を改め、純粋に「自分の心地よさ」を基準に選んでみてください。たとえば、SNSに載せる写真を「皆が喜ぶかな?」ではなく「自分が好きだからこの写真にしよう!」という基準で選んでみる、といったシンプルなことから始めてみましょう。
これらを繰り返すうちに、あなた自身の「内なるスコアカード」は少しずつ、はっきりとした形を帯びてくると思います。
そのプロセスは、時に他者とのずれを感じたり、違和感を覚えたりするかもしれません。
でも、その違和感は「自分が本来の自分に戻るためのシグナル」です。
まとめ:自分が納得できる人生こそが豊か
他人からの評価に左右されるより、自分自身の価値観に根ざした生き方を選ぶことは、長い目で見れば大きなメリットをもたらします。
自分で自分の軸を握ることで、外部の出来事に揺さぶられにくくなり、本質的な満足感を得やすくなります。
いずれ、あなたが選ぶ恋人像や友人像、仕事や趣味、ライフスタイルは、あなた自身の心の声に基づくものになり、周囲の評価は単なる”ノイズ”になるでしょう。
そのとき、バフェットの問いかけに対して、自信を持って「自分は前者(すばらしい恋人なのに、他人からはひどい恋人と思われるほうがいい)だ」と言えるはずです。
それは、他人が何と言おうが、あなたの「内なるスコアカード」は、常にあなたの心を最も正直に映し出しているからです。
今日から、「内なるスコアカード」を軸に生活してみませんか?